診療案内

スポーツ外傷関連疾患

↓(1)膝前十字靭帯損傷
↓(2)半月板損傷
↓(3)膝蓋骨脱臼
↓(4)オスグッド・シュラッター病
↓(5)疲労骨折
↓(6)変形性膝関節症
↓(7)スポーツドクターとして

診療案内

スポーツ整形外科グループでは、スポーツ傷害(外傷+障害)・膝関節外科・肩関節外科の診療を担当しています。部活動選手やトップアスリートのみならず、スポーツ愛好家の膝・肩関節痛の診療を行っています。また、成長期の膝関節痛や疲労骨折に関しても可能な限り早期にスポーツ復帰ができるように専門的な治療を行っています。

(1)膝前十字靭帯損傷

スポーツによる膝関節外傷として多いのは、半月板損傷靭帯損傷ですが、中でも膝前十字靭帯(以下ACL)はスポーツ外傷によって受傷しやすく、当科でも多くの手術加療を行っています。ACL損傷の発生メカニズムは、大きく2つ存在します。スポーツ中のターンやジャンプの着地動作時に膝を捻じって受傷する非接触型損傷とタックルなどの予期せぬ外力で膝を捻じって受傷する接触型損傷があります。スポーツ活動中に膝を捻じって膝関節に血液がたまり、腫れた場合には、約85%の確率でACL損傷が生じていると報告されています。ACL損傷後約1か月すると日常生活には支障がなくなることが多いですが、膝崩れなどの症状によりスポーツ活動への復帰が困難になることがあります。スポーツ活動中に膝を捻じって膝関節が腫れた場合には専門医への受診をお勧めします。

(治療)
一般的に、スポーツ活動への復帰を希望される方、労作業・日常生活で膝関節の不安定感が残存する方、若年者の場合には手術加療をお勧めしています。

(保存的治療)
日常生活動作で膝関節の不安定感がない方(中高年)やスポーツ選手でも手術的治療を希望しない方には保存療法を行います。保存療法によるスポーツ復帰では、専用のサポーターをつけ、膝関節周囲の筋力を強化し、リハビリで正しい動作を確認・習得して競技に復帰します。成績などについては外来で説明します。ご希望の方はご相談ください。

(手術的治療)
損傷したACLはギブス固定や縫合術では、機能を回復することは困難と言われています。そのため、ACL損傷に対しては、靭帯再建術が行われます。靭帯再建とは新しい靭帯を作る手術で、再建材料には患者さんの腱を用いることが多いです。当科では、膝を曲げる筋肉の一部である半腱様筋腱と薄筋腱、もしくは膝を伸ばす筋肉の一部である大腿四頭筋腱を年齢やスポーツの競技特性を考慮して用いています。
当科ではオリジナルの解剖学的ACL再建術を行っており、国内外の学会や雑誌で発表しています。
手術的治療の合併症には、再建靭帯の再断裂反対側のACL損傷術後の半月板損傷がいずれも約6%生じることがあります。

(術後リハビリテーション)
術後のリハビリテーションは、リハビリスタッフと協力し、個々に合わせた綿密なプログラムを作成します。競技種目や個人によって差はありますが、術後6か月~9か月でのスポーツ復帰を目指していきます。

(保存的治療)
日常生活動作で膝関節の不安定感がない方(中高年)やスポーツ選手でも手術的治療を希望しない方には保存療法を行います。保存療法によるスポーツ復帰では、専用のサポーターをつけ、膝関節周囲の筋力を強化し。リハビリで正しい動作を確認・習得して競技に復帰します。成績などについては外来で説明します。ご希望の方はご相談ください。

(前十字靭帯損傷予防に向けた取り組み)
ACL損傷の危険因子としては、関節弛緩性、解剖学的因子、グラウンドやフロアーの状態などがあります。当科では、北陸3県の高校女子バスケットボールとハンドボール選手・指導者に協力していただきACL損傷の危険因子を調査し、その結果をもとにオリジナルの予防プログラムを作成しています。

  • ACL再建術の術後レントゲン(左)
  • ACL再建術の模式図(右)

(前十字靭帯損傷予防に向けた取り組み)
ACL損傷の危険因子としては、関節弛緩性、解剖学的因子、グラウンドやフロアーの状態などがあります。当科では、北陸3県の高校女子バスケットボールとハンドボール選手・指導者に協力していただきACL損傷の危険因子を調査し、その結果をもとにオリジナルの予防プログラムを作成しています。

(2)半月板損傷

半月板は膝関節にあるクッションの役割をする組織で、膝関節における衝撃吸収だけではなく、膝関節を安定化させたり、膝の円滑な運動を助ける働きをしています。半月板損傷は、若年者の膝関節外傷でもっとも多くみられる外傷のひとつで、痛みや関節の腫れ、動きの制限などをきたします。また、損傷が大きい場合には膝関節を屈曲させた際に、関節内にはまり込んで、膝が伸びない“ロッキング”といった症状をきたす場合もあります。さらに、中高年者では、変性した半月板が断裂することもあります。

(治療)
①保存的治療 
後述の半月板縫合術の適応がない場合は基本的には保存的治療を行います。保存的療法(投薬、注射やリハビリテーションなど)に抵抗する際には手術的治療を考慮します。 ②手術的治療
以前は断裂した半月板を切除する手術が行われていましたが、その結果、術後の軟骨損傷や長期的に関節軟骨の変性をきたし変形性膝関節症を高確率で起こすことが分かってきました。そこで最近は半月板をできるだけ温存しようという考え方が主流となってきています。当科でも縫合が可能な半月板は縫合術を行います。
ただし、半月板は周辺部の血行のある部位を除き、自然治癒能力が極めて低いため、断裂の形態によっては縫合術の適応とならず、やむを得ず部分切除を行うこともあります。その場合の切除は最小限にとどめます。

  • 半月板損傷と半月板縫合の模式図

(3)膝蓋骨脱臼

膝蓋骨とは膝のお皿のことですが、これがスポーツ中の外傷により膝の関節から脱臼してしまうことがあります。膝蓋骨脱臼は、女子中高校生に多く見られ、ほとんどが外側へ脱臼します。原因は全身の関節が緩かったり、膝蓋骨が高い位置にあったり、元々、膝蓋骨が外側に位置しているなどが考えられます。また、成長段階で脱臼するので膝蓋大腿関節の発育が不良になることがあります。脱臼した膝蓋骨は自分で元に戻すことが可能ですが、初回受傷時に膝蓋骨を内側に引っ張っている内側膝蓋大腿靭帯(以下MPFL)が切れていることが多く、再脱臼を起こす可能性があります。繰り返し脱臼するのをそのままにしていると膝蓋骨と大腿骨の軟骨が痛みやすくなるため、繰り返し脱臼を起こす場合は整形外科専門医の受診をお勧めします。

(治療)
一般的に初回脱臼は保存的治療が選択されることが多いです。しかし、脱臼を繰り返すようならば(再脱臼率は20~40%)手術的治療を計画します。

(手術的治療)
再脱臼予防のためにMPFL再建術もしくは補強術を行います。当科では再建靭帯には半腱様筋腱を使用し、補強術は人工靱帯を使用します。また、脱臼の程度が強い場合、骨切り術を併用することがあります。

  • 術前
  • 術後

(4)オスグッド・シュラッター病

成長期のスポーツ障害で最も頻度が高い骨端症(成長軟骨部の傷害)で、脛骨粗面(けいこつそめん:膝のお皿の下の、すねの骨のでっぱり)部の圧痛、運動時痛、腫れなどを特徴とします。成長期の10~14歳ごろの、サッカーやバスケットボールなど、膝の曲げ伸ばしを繰り返すスポーツ選手に好発し、ときに、痛みが持続し、長期間スポーツ活動に支障を来たすことがあります。
単なる「成長痛」として放置されることもありますが、疼痛やスポーツ活動への障害を最小限にするためにも、早期に適切な診断・治療を行うことが必要です。

(診断)
一般的にはレントゲン写真やMRIによって行われますが、当科では超音波装置も用いています。超音波装置による検査は外来診察室で行われ、医師・患者さん・ご家族が一緒にリアルタイムの画像を見られるうえ、患者さんの身体的・経済的負担も少ない検査です。

(治療)
保存的治療(手術を行わない治療)が中心となります。個々の状態に応じてスポーツ活動の制限やストレッチングなどのリハビリテーション指導を行いながら、スポーツ活動への復帰をサポートします。疼痛が強い場合には個々の病態に応じて注射療法も行っていますが、その際もストレッチによる柔軟性の向上が必要です。

レントゲン写真(骨片の分離)
超音波検査写真

(5)疲労骨折

スポーツ活動などによる繰り返しのストレスにより全身のあらゆる骨は疲労骨折をすることがあります。それぞれの競技種目によって疲労骨折しやすい骨があります。
疲労骨折の診断と治療で大切なことは、早期発見と再発防止です。疲労骨折を疑った場合には、MRIを撮影します。レントゲン写真で異常がでない早期の段階で発見することができ、結果として早期にスポーツ復帰することができます。
骨折した場所や状態によって手術的治療を行うか手術以外の方法を行うかを判断します。可能な限り早期にスポーツへ復帰できるよう治療を考えます。治療の経過で重要なことは再骨折(再発)の予防です。再骨折を予防するために関節の動きや柔軟性、運動の評価や力学環境の変化などリハビリテーション部と協力して専門的にアプローチします。

  • 第5中足骨疲労骨折の術前(左)と術後(右)のレントゲン

(脛骨疲労骨折)

  • 脛骨疲労骨折 レントゲン(左)、MRI(中央、右)

(6)変形性膝関節症

変形性膝関節症とは関節の軟骨が摩耗することで膝に痛みを生じる疾患です。日本人の膝はO脚(がに股)が多いため、膝の内側に負荷がかかることが多いです。当科では変形性膝関節症の病態解明や新しい治療法の開発を研究しながら、保存療法や手術を行なっています。

(保存療法)

変形性膝関節症に対する新しい保存療法として2023年6月に保険収載された疼痛管理用高周波システムを導入し、外来で施行しています。手術はしたくないけれど、既存の保存療法(注射や運動療法など)の効果が乏しい方は外来でご相談ください。

  • 超音波診断装置にて確認しながら(右)、疼痛管理用高周波システム(左)を施行

(手術適応)

高位脛骨骨切り術では、荷重線が中央から外側になるように矯正する手術です。
この手術法では、人工膝関節置換術と違い、自分の膝を温存できるので、手術後にも正座やスポーツ復帰することが可能です。荷重線が内側を通る変形性膝関節症で、外側の軟骨や半月板が正常であること、膝の可動域(屈伸可能な範囲)が良好であること、注射や運動療法などの保存的治療を十分行なっても効果が乏しい方、そして人工膝関節をするには年齢が若い方やスポーツ・趣味などで活動性が高い方が適応になります。
喫煙者は、骨切りした部位の骨癒合が遅れることが多く、少なくとも術前3ヶ月は禁煙する必要があります。

(手術治療)

まず、膝の関節鏡を使って傷んだ半月板の修復を行います。その後、脛骨の内側から外側に向かって骨に切れ目をいれて、くさび型に広げた状態でチタン合金のプレートとネジで固定します。プレートとネジが体内に入っていてもMRI検査は問題なく行えます。
骨切りして開いた部位は自身の骨で埋まってきますので、手術後1.5年で支えていたプレートとネジを抜去します。治療終了後には特別な行動制限はありません。

  • 術前(左)に比べ術後(右)は荷重線(黄線)が外側に移動

(7)スポーツドクターとして

スポーツ選手の診療に携わるようになり、必然的に私たちスポーツ整形外科グループではスポーツ現場の大切さを実感するようになりました。平成19年からツエーゲン金沢のチームドクターをしており、その他国民体育大会や各種全国大会への帯同、石川県内で開催される育成年代のサッカー日本選抜の合宿などにも積極的に帯同しています。そのほかにも空手やレスリングの日本代表の帯同を行ったり、トランポリンやウェイトリフティング選手のサポートも行っています。

また、スポーツ外傷や障害において最も大事なことは“予防”と考え、平成29年から毎年11月23日には石川県の学童野球連盟に所属する小学4〜6年生を対象とした「学童野球肘検診」を開催しています。問診、診察および超音波診断装置を用いて、二次検診が必要な球児の早期発見に努めています。

  • 左:サッカーJリーグの帯同、中央:レスリング日本代表の帯同、右:空手日本代表の帯同
  • 野球肘検診