診療案内

手に関する疾患

↓(1)手外科とは
↓(2)槌指
↓(3)手根管症候群
↓(4)肘部管症候群
↓(5)デュピュイトラン拘縮
↓(6)リウマチによる手の障害
↓(7)母指CM関節症
↓(8)キーンベック病(月状骨軟化症)

(1)手外科とは

 手の外科とは、肘から指先までの外傷、しびれや麻痺、変形に対する治療、マイクロサージャリーの技術を用いた切断指の再接着や組織移植などを含む、機能再建を行う医学分野の呼び名です。アメリカなどでは整形外科とは別に、手の外科が独立した診療科として認知されています。これは、手や指の中には骨、靭帯、腱、神経、血管といった重要な組織が凝集しており、解剖や機能を熟知した上での専門的な治療が必要となるからです。
 実際に手の外傷は大学病院でも一般病院でも非常に多く経験します。包丁で手を切ったり、ドアで指を挟んだり、ボールが指に当たったり、と皆さんも経験した事があるような、様々な外傷があります。この中には手の外科医の専門的な診断と治療を要する症例が少なくありません。メスの入れ方や縫い方、固定の方法でその後の成績が大きく変わる場合があるからです。
 特に手の外科医の技術が発揮されるのは、マイクロサージャリーが必要とされる場面です。外傷による神経や血管の損傷はもちろんですが、組織移植に際してもその技術が駆使されます。外傷や腫瘍切除後の組織欠損に対して皮膚や骨を他の部位より採取し、欠損部で血管を吻合して再建する組織移植の技術は極めて有効です。手術用顕微鏡を用いて直径1mm前後の血管を縫合するのですが、この技術の習得には訓練を要します。実際、練習用顕微鏡を用いて、ラットなどの動物の血管を縫合する練習を積み重ねようやく習得できるものです。修行が必要ですが、この技術を習得することにより整形外科医が一目おく「手の外科医」となれるわけです。
 神経や血管を扱う技術は手術の幅を広げ、どのような手術の際にも余裕を持てる根拠となります。身につけた知識や技術を駆使して難しい症例に立ち向かい、よい成績が得られた時の喜びは、何物にも代えがたいものがあります。そのために、毎日勉強し、腕を磨く必要があるわけです。

(2)槌指

いわゆる「突き指」には、軽い捻挫から靱帯損傷や骨折、亜脱臼まで様々な病態が含まれています。その中で、指の先を伸ばすことができなくなり、指先が曲がった状態を「槌指(つちゆび)」と呼びます。スポーツ、特にボールを使った競技などで発生することが多く、放置すると指の変形につながる場合があります。槌指には大きく分けて①伸筋腱のみが損傷するもの、②末節骨(指の一番先端の骨)が骨折するもの、の2種類があります。これらを診断するためにはレントゲン検査が必要です。伸筋腱のみの損傷であれば「装具」で治療することが可能ですが、骨折を伴う場合は手術を要することがあります。

 当科で行っている手術は、ずれた骨片を元の位置に戻し、下図のように細い鋼線で固定するものです。骨癒合が得られるのはもちろん、術後に指の伸展制限が出にくい優れた方法です。

 たかが突き指、されど突き指。週末のスポーツで突き指をしたら、少なくとも休日明けには整形外科を受診することをお勧めします。

(3)手根管症候群

 手のしびれを感じたことがありますか?

 手のしびれを引き起こす代表的疾患の一つに、「手根管症候群」という疾患があります。
手くびには「手根管」というトンネル構造があり、その中を「正中神経」という神経が走行しています。この「手根管」の内部で「正中神経」が圧迫されると、手のしびれを引き起こす「手根管症候群」となり、多くの場合、親指、人差し指、中指、薬指の先端にしびれが出現します。
 診断は、手のしびれの局在や筋力低下などの症状に加え、「電気生理学的検査」を行い、重症度の判定を行っています。治療は、生活指導やビタミン剤の内服などの保存治療と、「手根管」を開放する手術治療があります。

 「手根管症候群」に対する当科の取り組みを紹介します。 まず、軽症例に対しては血流改善薬を用いた臨床治験を行っています。手術については、独自の器具を用いて、小切開による手術を行っています。傷が小さいため術後の痛みは最小限に抑えられています。

 手のしびれの原因は様々であり、頚部が原因となっていることも多いのですが、「手根管症候群」が原因かもしれません。ぜひ一度専門医にご相談ください。

(4)肘部管症候群

 「手根管症候群」と同様に、手のしびれを引き起こす疾患として、「肘部管症候群」という疾患があります。

 「肘部管」とは肘の内側にあるトンネル構造で、その中を「尺骨神経」という神経が走行しています。肘をぶつけた時に電気が走るような痛みを感じることがあるかと思いますが、その部位です。「肘部管症候群」はこの「肘部管」の内部で「尺骨神経」が圧迫されたり、牽引されたりすることにより発症し、多くの場合、薬指、小指にしびれが出現します。

 外来では、手のしびれの局在や筋力低下などの症状や、「電気生理学的検査」の結果から診断を行っています。治療は、生活指導やビタミン剤の内服などの保存的治療と、「肘部管」を開放する手術治療があります。
「肘部管症候群」は、保存的治療では症状が改善しないことが多く、症状の経過を見ながら手術を計画するのが一般的です。当科では「尺骨神経」を十分に剥離した後、肘を屈曲した際に神経が牽引されることを防ぐために、神経の「皮下前方移動術」を追加しています。

(5)デュピュイトラン拘縮

 手のひらから指にかけての皮膚に固いしこりができ、指が伸ばしにくくなる病気です。これは「手掌腱膜」という膜が厚くなり引きつった状態になるため生じる病気で、特に手の薬指、小指が罹患しやすいです。中年以降の男性に多く、糖尿病の方に多く発生します。
指の伸ばしにくさに応じて、手掌腱膜を切除する手術を計画します。手術をせずに注射によって治療する方法も現在臨床研究が行われておりますので、まずはご相談ください。

(6)リウマチによる手の障害

 関節リウマチが進行すると手や指の変形を生じることが多く、高度に手の機能を障害される方もたくさん見受けられます。中でも問題となるのが、手関節の炎症や変形のために生じる指の「伸筋腱」断裂です。伸筋腱が断裂すると突然指を伸ばすことができなくなります。切れてしまった腱をもとの状態に戻すことは難しいため、他の指の腱と縫い合わせるなどして、できる限り機能を再建する手術を行います。
 なお、伸筋腱が切れる前に手術を行い断裂を予防することも可能です。まずはご相談ください。

(7)母指CM関節症

 親指のつけ根の手首に近いところには「CM関節」という関節があります。親指は他の指と共同して「つまみ」や「握り」の動作をつかさどる大切な指ですので、CM関節には負担がかかりやすくなっています。そのため、親指の使いすぎや加齢によって関節の変形をきたすことがあります。
 ものをつまんだり瓶のふたを開ける動作などで徐々に痛みを感じるようになり、進行すると親指の動きに障害が残ることがあります。症状が軽度であれば注射や装具などで治療しますが、症状が改善しない場合は手術による治療を選択します。まずはご相談ください。

(8)キーンベック病(月状骨軟化症)

 手に繰り返し衝撃をうける職業の人に多く発生します。手関節の「月状骨」(げつじょうこつ)という骨に細かいひびが入り、徐々に壊死してつぶれてくる病気です。
 放置した場合は手関節の変形を残すことがあります。初期のものであれば手術をせずにギプス、装具などで治療しますが、進行した場合は月状骨の摘出や骨切りなど、いろいろな手術の中から最適なものを選択し治療を行います。まずはご相談ください。