先天異常疾患
↓(5)遺伝性多発性外骨腫症(Hereditary Multiple Exostoses:HME)
先天性に骨・関節に問題があり、成長と共に四肢の変形や低身長、左右の脚長差が明らかとなり機能的にも美容的にも障害となります。これらの中には骨系統疾患と呼ばれる全身性の異常によるものや良性腫瘍および腫瘍関連疾患によって引き起こされるものがあります。ここではそれらの中で代表的なものを紹介します。
(1) 先天性脛骨偽関節症
頻回な骨折を特徴とする小児期の脛骨の病変で、先天性とあるが発症は必ずしも生下時とは限らず、概ね2歳以下に発症します。原因は今のところ不明ですが、骨膜の異常が異常であるという考えが主流です。発症頻度としては19万人に1人と稀な疾患です。約60%で腓骨の同レベルにも偽関節を合併します。また、約55%に神経線維腫症1型(NF-1)を合併し、関連が深く一方を診断した際には他方を強く意識する必要があります。
この疾患は、『偽関節』の名のとおり骨癒合を得ることが困難なばかりでなく、いったん骨癒合が得られたとしても簡単に再骨折をきたしてしまうため、極めて難治性とされています。近年の手術治療の向上により、その骨癒合率は向上してきていますが、再骨折率が高いことが問題としてあげられ、これを予防することがこの疾患のブレイクスルーと考えられています。
当科では創外固定で矯正・癒合後にプレートでの内固定へと切り替えることにより、創外固定を装着する期間の短縮及び再骨折の予防に成功しております。
図:創外固定をもちいて変形した骨を矯正し、一定の癒合が得られるまで固定(a,b,c)。その後創外固定を外し、プレートを用いた内固定に切り替える(d)。
症例(術前):複数回に及ぶ骨折を認めており(術前①~③)、下腿の著明な変形・不安定性を認めている(術前④)
症例(矯正中、矯正後):創外固定で矯正し(矯正中①、②)、骨が癒合した段階でプレートでの固定に切り替えた(矯正後)。切り替えて14年経過した後も変形・再骨折は認めない。
(2) 線維性骨異形成
骨腫瘍ではなく、骨腫瘍類似疾患とされています。名前が示すように、骨の中で、骨の形成異常が起こって線維組織に置き換わり、その中に未熟な骨が作られる病気です。骨の一部が骨になりきれず線維性組織として残ったものと考えてよいでしょう。骨の成長する時期に発見され、1カ所にできる単骨性と、全身に多発する多骨性があります。多発性の時には体の片方に優位に現れることが多いです。また、皮膚の色素沈着と性の早熟を伴うことがあり、アルブライト症候群と呼ばれます。
原因はGタンパクと呼ばれる物質の異常により、骨の形成が障害され、骨を作るべき細胞が骨を作りなさいという指令を受け取ることができなくなることと考えられています。
この繊維性骨異形成症でも『羊飼いの杖変形:Shepherds crook deformity』と呼ばれる特徴的な変形を代表とする高度な変形を呈します。変形の原因としては成長軟骨板自体に異常はないが、正常骨髄が病変に置換された脆弱骨で起きる病的骨折による変形と考えられています。
単骨性の場合は、病巣の掻破と骨移植を行う場合もありますが、主に治療を必要とする多骨性の場合は病変が広すぎて掻破・骨移植は現実的でなく、また、この疾患での掻破・骨移植は再発が必発のために意味がないとされています。そこで治療は変形に対する治療がメインと我々は考えています。この疾患での変形矯正の特徴は、延長を必要とする症例は稀で変形矯正または過成長補正の為の短縮・変形矯正があります。正常なアライメント獲得後、骨は力学的に強固となり病的骨折による再手術は稀となることが期待できます。
症例① 大腿骨近位部の変形を認めていたが創外固定による緩徐な矯正により良好なアライメントを得られている
例②(A~C):下腿に著明な変形を認めているが、矯正後良好なアライメントが得られ、浮いていた踵も接地するようになった
(3) 多発性内軟骨腫症(オリエール病:Ollier病)
多発例のなかでは、片側半身のみにできるオリエール病と、軟部腫瘍の血管腫を合併するマファキ症候群が特徴的な病態として報告されています。我々は特にオリエール病での治療経験が多くあります。
このオリエール病は身長が伸びる部位である成長軟骨板自体に病変があり、正常の成長が障害されて短縮・変形が起こると考えられています。変形の程度は複雑高度で、短縮による脚長差も強いです。病的骨折は稀と考えられていますが、これが合併した際には変形はさらに高度となります。一回の治療終了後も成長が続く限り変形が再発するため多数回手術となります。この良性腫瘍の悪性化については様々な報告があり、高いもので約30%と言われています。悪性化するか否か、また、いつ悪性化するかの予想を立てることは出来ず定期的な経過観察が早期発見につながります。また、変形矯正や脚延長などの治療と悪性化との関連は現在のところないと考えられています。
(4) 骨系統疾患
骨・軟骨の発生・成長の過程での何らかの異常により骨格の形態や構造に系統的な異常をきたす疾患の総称をいいます。骨端や骨幹端と呼ばれる骨が成長する部位での異常では低身長や著しい変形の原因となり、また、骨幹と呼ばれる部位の異常で骨の強度の異常が起こり病的骨折の原因となります。多くの疾患で低身長を呈し、四肢と体幹のプロポーションや骨密度により大まかに分けられます。代表的なものを下にあげます。
変形が高度となった場合や病的骨折、機能障害を伴う低身長などで治療の対象となります。治療には仮骨延長による緩徐変形矯正や骨折部の固定、脚延長などを行います。
(5) 遺伝性多発性外骨腫症(Hereditary Multiple Exostoses:HME)
外骨腫とは、長管骨の骨幹端から外側に成長する、軟骨で覆われた骨の良性腫瘍です。遺伝性多発性外骨腫(HME)は、成長する多発性外骨腫を特徴とします。この外骨腫により、骨の成長障害、骨変形、関節可動域制限、低身長、若年からの変形性関節症、末梢神経への圧迫症状を来たします。骨軟骨腫への悪性化のリスクは生涯をとおして1%以下と低いと考えられています。
類似疾患に単発性外骨腫があり、これは全身骨レントゲン検査を行うと、人口の1~2%に認められる頻度の高い骨の良性腫瘍で、治療を必要とすることは稀です。臨床的に問題がなければ、外骨腫は治療を必要としません。
しかし、現実には大多数のHMEの患者は、骨の角ばった変形、皮膚・腱・神経の刺激による疼痛、脚長差に対して、しばしば手術を受けます。骨変形がない場合にも、疼痛部に対して簡単な腫瘍切除術が行われ、軟骨帽やそれを覆う軟骨膜を含めて切除します。これによる効果は成長障害を遅らせたり、外見を改善したりする点と考えられています。
前腕では、尺骨が成長障害により短縮し、それに伴い橈骨が尺骨側に曲がる変形を起こします。橈骨の矯正骨切り術+尺骨の骨延長術で前腕の機能障害を回復することが出来ます。また、下肢に関しては、最近の研究で足首の変形、疼痛、早期発症の関節炎がHMEの患者の約1/3に認められ、そのうちほとんどが脛骨・踵骨の傾斜異常を伴うことが分かりました。この変形に対する早期治療により、晩年の足首の機能荒廃を予防したり、軽減したり出来ることが期待されています。
(6) O脚変形(ブロント病:Blount病)
ひざを伸ばして両脚をそろえて立ったときに、左右のひざの間が開いているのがO脚、左右のくるぶしの間が開いているのがX脚です。生まれたばかりの新生児は脚の骨の外側が内側よりも少し長いため、みんなO脚です。通常、幼児期のO脚は「生理的O脚」とよばれ、正常な発育家庭で見られるもので、成長するに従って改善します。通常は2~3歳くらいまではO脚で、4~5歳でX脚になり、6歳くらいまでにまっすぐになります。
ブロント病は、生理的O脚であれば、1~3歳で改善するはずのO脚が逆に悪くなる場合に強く疑われます。この1~3歳頃に発症するものを幼年期型(infantaile type)、もう少し年長児(6~12歳)になって発症するものを青年期型(adolescent type)といいます。幼年期型は左右の両方がO脚となることが多く、青年期型は片足のみのことが多いと言われています。脛骨の膝に近い部分にある骨端線(成長軟骨板)の障害により、骨の内側が成長しないために、外側のみが成長することで、徐々に骨が内側に曲がって育つことで、O脚を引き起こします。なぜ成長線の障害が起こるのかは解っていませんが、幼年期型では歩き始めが速すぎることなどが影響していると言われ、青年期型では、なんらかの外傷によるものとの説もあります。放置すると膝関節のゆがみも生じ、将来的には変形性関節症となるため、早期の治療が必要です。 治療としては、早期には装具治療を行いますが、経過が悪い場合は変形矯正術が行われます。我々は完全な美しいアライメントを目指してTaylor創外固定器を使用しコンピューター支援下に非常に精度の高い矯正術を行っています。