診療案内

脊椎・脊髄疾患

(1)脊椎腫瘍(がんの脊椎転移など)

1. 金沢大学発祥!腫瘍脊椎骨全摘術(TES)

  • 腫瘍脊椎骨全摘術(TES)は、がんの転移など脊椎に発生した腫瘍を完全に切除する高難度の手術です。
  • この手術は金沢大学整形外科で開発され、その有効性と安全性が認められて保険適用の手術となり、現在では国内外に普及しています。
  • 金沢大学はこの手術をこれまでに300件以上行っており、世界で最も経験豊富な施設です。

2. 腫瘍脊椎骨全摘術(TES)の目的

  • 局所根治:背骨からがんを完全に取り除くことで、転移による痛みや麻痺などの症状を改善させます。不完全な切除では早期に再発してしまいます。
  • 長期生存:余命が短いとされていた患者さんでも、がんの種類によってはTESにより生存期間の延長が期待できます。

56歳 腎癌の第5−7胸椎転移 余命半年と診断され、手術前は立つこともできませんでしたが、TES術後は仕事にも復帰し、術後10年経過した現在も元気に生活されています。

3. 腫瘍脊椎骨全摘術(TES)の適応

  • 脊椎が原発のがん、一部の良性腫瘍
  • がんの脊椎単発転移で重要臓器(肺や肝臓)への転移がない、またはコントロールされている場合
  • 進行の早いがんや、多数の転移がある場合、脊髄にできたがんは適応外です

(2)脊柱変形

1. 小児脊柱側弯症

脊柱側弯症とは、体の正面からみて背骨が横方向に変形(弯曲)した状態であり、変形の多くは左右の弯曲だけではなく,ねじれを伴っています。この背骨のねじれが強いと背中にこぶを形成します。

側弯症による変形が進行すると、背中の痛みや腰痛が出現したり、呼吸機能の低下や神経の障害を伴うことがあります。また心理的ストレスの原因ともなり得ます。

側弯症の原因は様々ですが、最も多いのは特に原因がなく、思春期の女子に進行する特発性側弯症です。その他に先天的に生じた側弯症や、神経、筋肉、代謝の異常に伴う側弯症があります。

治療法は年齢や側弯症の程度・進行速度などによって異なりますが、側弯専門施設での早期診断、早期治療が最も重要です。

具体的には、変形が軽度である場合には装具療法が行われます。一方、弯曲が強いものや急速に変形が進むものには手術療法がすすめられます。

思春期特発性側弯症
16歳女性
手術後

手術に際しては、当科ではコンピューターナビゲーションシステムの導入や脊髄機能モニタリングを行い、より安全で確実な治療を心がけています。また最近では、手術方法や手術器具の進歩により、以前と比べてより効果的な矯正が可能となっています。

コンピューター
ナビゲーションシステム
脊髄機能モニタリング

2. 成人脊柱変形

成人期以降でも、側弯症の遺残によって症状が出現する方や、壮年、老年期に見られる変性側弯、後弯症の方も増えてきています。脊柱変形に関してお困りでしたら、是非専門家の意見を聞きにいらしてください。

      75歳女性 脊柱後弯症

(3)胸椎後縦靭帯骨化症(OPLL)

1. OPLL、OLFとは?

脊柱靭帯骨化症は、脊椎(せぼね)を支持する靱帯である後縦靭帯や黄色靭帯が骨化し増大した結果、脊髄の入っている脊柱管が狭くなり、脊髄が圧迫されて知覚障害や運動障害などの神経障害を引き起こす病気です。後縦靭帯骨化(OPLL)と黄色靭帯骨化(OLF)に大別され、厚生労働省の難病に指定されています。症状は、四肢のしびれや歩行障害で発症し、排尿・排便障害を生じることもあります。一旦、脊髄症状が出現すると進行性であり、手術以外の治療は有効ではありません。レントゲンで靱帯骨化が疑われた場合、CTやMRI検査などの行うことで、脊髄圧迫の程度や骨化の形、大きさを知ることができます。

2. 胸椎OPLLに対する後側方進入前方除圧術

胸椎OPLLの症状は重症なことが多く、手術では高度な技術が必要であり、麻痺などの手術合併症も少なくありません。脊髄を圧迫しているOPLLを切除することは一般的には困難であり、OPLLを取り除くことなく後方から神経の圧迫を取り除き金属で補強する方法(後方除圧固定術)が実施されることが多いです。近年、我々は大きな胸椎OPLLの症例に限って、安全かつ確実にOPLLを切除して脊髄の圧迫を十分に取り除くする手術を開発し、実施しています。現在では、この手術の有効性が学術論文や学会発表により広く認知され、国内外で徐々に実施されるようになってきています。当院は胸椎OPLL手術の経験は豊富であり、良好な成績を得ています。