診療案内

骨粗鬆症(骨代謝疾患)

「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)とは」

骨はいったん作られるとそれ以降は生まれ変わらない歯のような組織とは違い、皮膚や爪のように毎日少しずつ新しく作り直されています。健康な成人では、骨の形成と骨の吸収のバランスは保たれていますが、骨粗鬆症では、骨の吸収が骨の形成を上回ってしまっている(骨吸収亢進)ため、次第に骨の密度が低下し、骨が脆く・弱くなっていく病気です。骨粗鬆症には2種類あり、ひとつは骨の形成と骨の吸収がともに亢進しているのですが、結果として骨の吸収が上回っている「高回転型」と、もうひとつは骨の形成と骨の吸収がともに低下しているのですが、結果として骨の吸収が上回っている「低回転型」があります。

「骨粗鬆症患者さんの実際」

日本には、約1000~1200万人程度の骨粗鬆症患者さんがいらっしゃると推定されています。これは生まれたばかりの赤ちゃんを入れても、10~12人に1人は骨粗鬆症になっている、ということであり、きわめて多くの方が骨粗鬆症になられているといえます。ちなみにみなさんの身近にも糖尿病の患者さんがいらっしゃると思いますが、日本における糖尿病の患者さんは約800万と推定されており、実は糖尿病の患者さんよりも多くの骨粗鬆症の患者さんがいるということになります。また日本では、先進諸国の中でも高齢化率の進行が極めて早く、今後も骨粗鬆症の患者さんは増加していくと考えられています。骨の密度は女性ホルモンに強く影響を受けるため、女性の方に多い病気で、50歳代の女性の10人に1人、60歳代の女性の3人に1人、70歳代の女性の2人に1人が骨粗鬆症であると言われており、女性にとっては身近な疾患です。

「骨粗鬆症と骨折」

骨粗鬆症患者さんで骨折しやすい代表的な場所には、1.うでの付け根(上腕骨近位部骨折)

、2.背骨(脊椎圧迫骨折)、3.手首(橈骨遠位端骨折)、4.太ももの付け根(大腿骨近位部骨折)などがあります。このうち手首の骨折は、中年後期頃から発生し、比較的若いうちから受傷することがあります。治療方法には、それぞれ様々な方法がありますが、保存療法(手術を行わないで治す方法)、手術療法とも、長所・短所がありますので、担当の先生から十分な説明を聞く必要があります。また骨粗鬆症が重篤な場合には、手術により挿入した金属が手術の後に弱い骨を壊して引き抜けてくることがあり、再手術が必要になることがあります。
寝たきりの原因となりやすい大腿骨近位部骨折(脚の付け根の骨折)については、日本全体ではひと月に1万人以上の方がこの骨折を受傷されています。また、大腿骨近位部骨折の患者さんは、今後の高齢化の進行とともにより増加していくと予想されています。統計上、大腿骨近位部骨折を受傷した患者さんのうち、10人に1人は受傷後1年以内に亡くなられています(80歳代では5人に1人)。ご高齢の方が医師より、「転ばないで」、「転ばないで」、と念を押されるのもこのためです。大腿骨近位部骨折は、屋外の雨や雪で濡れたコンクリートで滑って、受傷するイメージが強いようですが、実はその60%は屋内で転倒して受傷しています。長年住み慣れた我が家でも、年を取るに従いちょっとした段差でも転びやすくなります。「あたま」の元気な人ほど、若い時のイメージで、パパッと動き回ろうとして危険です。誰と競争しているわけではありません。長年お世話になったからだに敬意を表して、ひと呼吸おいてから動いてあげる、思いやりも大切です。介護保険を利用して、家の中に手すりなどを設置する改修工事を行うことができる場合があります。医師、リハビリ担当者、ソーシャルワーカーなどと相談してみることも大切です。

骨折の好発部

「骨粗鬆症と要介護、寝たきり」

ある調査によれば、特に女性では、寝たきりとなった原因の1位は、転倒・骨折(約4人に1人)であり、高齢による衰弱による原因よりも多い原因となっています。この報告によれば、関節疾患と合わせれば3人に1人は運動器疾患のために寝たきりになっていたと報告されています。むろん老後を健康に、充実したものとして過ごすには、血圧、心疾患、糖尿病などに気を付け、場合によっては、投薬加療をきちんと受けることが大切であり、実際積極的に加療を受けられている患者さんも多くおられると思いますが、寝たきりにならないためには、骨粗鬆症に対する日ごろからの加療も非常に大切であると言えます。
また転倒・骨折は要介護になる原因の第3位でもあり、これは認知症を原因とするよりも多いのが現状です。また、関節疾患(変形性膝関節症など)と合わせれば、実に5人に1人は運動器疾患のために要介護の状態となっているのが現状です。
骨密度がいくら1~2増加しても、骨折をして寝たきりになってしまってはなんの意味もありません。転倒・骨折を防ぐといった観点からもリハビリなどによる下肢の筋力、バランス訓練、日常からの生活指導なども重要です。この観点からも骨粗鬆症は整形外科の得意分野であり、骨折時の手術だけではなく、総合的な加療を受けるためにも整形外科を受診することをお勧めします。

「骨の密度が低下する原因」

骨の密度が低下するのは、加齢による骨粗鬆症だけが原因ではありません。他にも甲状腺の病気や、腎臓の病気でも骨密度が低下することがあります。またがんなどで胃の切除してしまった場合、アルコールなどにより肝臓の障害がある場合、糖尿病がある場合、抗てんかん薬や抗けいれん薬などを内服している場合など、様々な原因で骨密度が低下することがあります。稀ですががんの骨への転移などでも骨密度が低下することがあり、単に加齢による骨粗鬆症と決めつけないことが大切です。

「骨折の危険因子」

骨折の危険因子となるものには、骨密度の低下以外にも、すでに骨折をしたことがあること、喫煙をしていること、飲酒量が多いこと(ビールで350mlを3本以上、日本酒で2合(360ml)以上)、ステロイドを使用していること、親が大腿骨近位部骨折を受傷したことがあること、低体重であること、などがあります。特にステロイドは、若年者でも喘息、膠原(こうげん)病、腎臓病など多くの疾患で用いられていることが多く、ステロイドの投与を受けていたり、受ける予定の方は骨折に対する注意が必要(ステロイド使用により骨折のリスクは2~4倍に増加)です。「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン(2004年度版)」では、3カ月以上の経口ステロイドの投与を受けている、または受ける予定がある患者さんに対しては、早期から骨折に対する注意や治療が必要であると述べられています。特に注意が必要なのは、プレドニゾロンというステロイド薬へ換算して1日5mg以上の内服を行う場合には、骨密度が正常な場合でも薬物治療を行うことを推奨している点です。

「骨粗鬆症の治療薬」

骨粗鬆症の治療薬には、カルシウム剤、女性ホルモン製剤、ビタミンD製剤、ビタミンK製剤、ビスフォスフォネート製剤(第1~3世代)、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)製剤、タンパク同化ホルモン製剤、イソフラボン系製剤、カルシトニン製剤など実に多くの種類があり、それぞれ特徴があります。骨粗鬆症治療のガイドラインでは各薬剤の推奨度が挙げられており、多くの患者さんはビスフォスフォネート製剤の処方を受けられていることが多いのですが、実はその服用方法、期間などに注意が必要です。最近ではビスフォスフォネート製剤の長期間の服用が原因と考えられる、顎骨壊死(BRONJ)や大腿骨の非定型骨折(SSBTによるatypical fracture)が問題となっています。ステロイド性骨粗鬆症の場合には、第1選択薬はビスフォスフォネート製剤ですが、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)製剤には有用性を示すデータがないことから、第2選択薬は活性型ビタミンDやビタミンK を用いることが推奨されています。またカルシウムのサプリメントだけでも約2%程度は骨の密度を上昇させると言われていますが、骨折は予防できないことが統計学的に検討され報告されています。しかしこれらの推奨度はあくまでも各薬剤単独の場合でのお話ですので、むろんカルシウムの摂取量が少ない患者さんや、ビタミンDが不足しているような患者さんには他の薬剤と合わせてこれらの薬剤を投与することは有用です。このように、多くの骨粗鬆症薬には、それぞれ特徴があり、患者さんの状態、背景などを総合して投薬を行う必要があります。
最近では骨粗鬆症に対する新しい作用機序を持つ注射剤も発売され、定期的内服が困難である患者さんや、寝たきりの患者さんでも強力な骨粗鬆症薬を使える(肉体的に強靱な宇宙飛行士でも、重力の影響を受けない宇宙空間では、半年で約10%骨の密度が低下するという報告があり、寝たきりの老人であればなおさら骨の密度の低下が危惧されます。実際寝返りの介助をしただけで、ももの骨が折れた症例もあります)ようになりました。今後新しい作用機序の新薬も導入される予定となっており、今後骨粗鬆症の治療はより幅広く専門的になっていくと考えられます。

「当院での骨粗鬆症の検査」

骨粗鬆症の検査には、骨粗鬆症の原因を調べるためのもの、骨密度を調べるためのもの、骨の形成や骨の吸収の程度を調べるためのもの、薬による副作用などを調べるためのものなどがあります。当院では骨密度をより正確に測定するため、可能な方では腰椎および股関節部でDXA法(二重エックス線吸収法)を用いた測定を行っています。ただ検査が込み合っているため事前に予約をする必要がありますのでご注意をお願いいたします。また今までは、服用しているお薬が効いているか判定するには、絶食で早朝尿を取り調べる必要がありましたが、最近は採血でより正確な判定を行うことができるようになりました。当院ではお薬の副作用が出ていないか定期的に採血を行って調べており、採尿を行わなくても採血で検査を行うことができるようになっています。

「専門外来で相談」

患者さんの多くは、心臓病、糖尿病、喘息など多くの病気で専門医を受診し治療を受けられています。しかし骨粗鬆症は、要介護や寝たきりの大きな原因となる病気にも関わらず、専門的な治療を受けられていない場合がほとんどです。普段の生活では、骨粗鬆症であることを自覚させられることはまずありませんが、放置すれば骨粗鬆症は加齢とともに少しずつですが確実に進行していきます。当科では骨粗鬆症の専門外来を行っていますので、骨粗鬆症に対して積極的に加療を望まれる方は、是非当科外来を受診ください。

「骨粗鬆症に対する研究」

当科では様々な面から骨粗鬆症の研究を行っています。骨粗鬆症薬の有効性については、日本では今までは製薬会社から提供されたデータだけを元にその有用性が評価されてきました。これ対しては、日本人を対象とした骨粗鬆症薬の有効性の科学的検証が必要であるとの認識から、現在全国規模で3500名程度を対象とした、市販薬を用いた大掛かりな臨床試験が行われることになっており、金沢大学でもこの試験に参加を予定しています。すでに承認を受けて多くの病院で処方されている薬ですので、その安全性には大きな問題はないと考えられるお薬です。これからの骨粗鬆症治療の科学的な発展にご興味をお持ちいただける方は、是非当科外来を受診ください。