金沢大学附属病院 整形外科

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私の座右銘 ”夢・挑戦・実現”

2019.02.06


 タイトルに掲げた言葉は、金沢大学整形外科学講座のモットーである。日本人の多くは、夢は実現し難いものと思っているが、欧米人は夢というものは実現できると信じている。これは持って生まれたDNAや民族性の違いだと言われてしまうとどうにもならないが、医学をはじめとしてあらゆるものがグローバル化し、すごい速さで情報が行き来するなか、 日本人もいつまでも内向き志向のままではいけない。

 2016年2月12日―「重力波を観測しました」、「重力波を通じて宇宙が初めて我々に語りかけました」―UGO計画の責任者であるデイビッド・ライツィ、フロリダ大教授は、幾分興奮して、ワシントンの記者会見で報道陣にこう発表した。
 重力を探求する科学者たちは地球から数十億光年離れた場所で2つのブラックホールが衝突することによって、時空のゆがみが発生しているのを観測した。この驚異的な重力波の初観測は、天文学にとって新時代の幕開けだと国際研究チームは言う。数十年と積み重ねてきた研究の成果が、いずれビッグバン解明の手掛かりとなるかもしれない。観測対象となるシグナルは極めてかすかで、観測機器がシグナルを感知した際の振れ幅は原子の幅の数分のーに過ぎないと言われる。今回、米国内の別々の2カ所にあるUGO施設が、ブラックホールの合体を観測した。 これは、ヒッグス分子発見以来最も重要な科学的発展のひとつだと評価され、DNA分子構造の発見に匹敵し、ノーベル賞は間違いないと言われている。相対性理論を裏付けるものとされ、観測されたブラックホールの概要は、アインシュタインが約100年前に予測したものと完全に合致する。夢への挑戦がなされ、その実現まで100 年の歳月を要した。

 2015年は二人の日本人がノーベル賞を受賞した。大村智氏が微生物の生産する有用な天然有機化合物の探索研究を45年以上行い、これまでに類のない480種を超える新規化合物を発見、それらにより感染症などの予防・撲滅、創薬、生命現象の解明に貢献したことで医学生理学賞を、梶田隆章氏がニュートリノに質量があるのを発見して物理学賞を受賞した。2016年には、大隈良典氏がオートファジーの仕組みの解明で医学生理学賞を受賞した。21世紀に入ってから、日本人の受賞者数は16人となり、自然科学分野での受賞者はアメリカについで世界第2位である。(2018年ノーベル医学生理学賞に本庶氏が決定し、17人となる。)
 しかし、これまでに多くの日本人がノーベル賞を逃しているのをご存知だろうか。ジフテリアの血清療法を確立した北里柴三郎、コールタールによる実験発がんに成功した山際勝三郎、オリザニン(ビタミン)を発見した鈴木梅太郎、アドレナリンの抽出に成功した金沢にゆかりの深い高峰譲吉などがあげられ、同時期の研究者や後追い研究者がノーベルを受賞している。このような話は枚挙に暇がない。
 人種差別が軽減され、正確な情報に素早く辿り着ける今日では、 もはやこのような事態は起こるまいと信じたい。しかし、前述した日本の誇る先人たちの偉業は、夢・挑戦・実現の証であり、大いに誇るべきものである。挑戦する人間は価値ある人間であり、それが発展につながっていく。

 私の専門とする整形外科学の領域においても、人工関節、脊椎インストルメンテーション、80%を超える骨肉腫の5年生存率、抗菌インプラント、脚(骨)延長術、イリザロフ法、骨粗鬆症や関節リウマチの治療薬などなど、このような進歩が起こることを一体誰が予想できたであろうか。これらも、多くの先人達が、夢を抱き、挑戦し、そして実現してきたからである。実現したものの陰で、多くのものがその実現に失敗したであろう。しかし、諦めてはならない。それらも、たゆまぬ努力によりいつか実現する日が来るであろう。
 毎年、600人近い整形外科医が誕生する。当初は、希望と不安が胸に入り混じっていることと思う。夢と希望、憧れを持って働く(勉強する)ことが大事である。これがあれば、失敗は恐るるに足らず。失敗したら、次には失敗するまいと思って進むこと。成功したら、成功の中にある不十分な点を見つけ出して改革していくこと。それが進歩につながる。

 私の夢と憧れは、整形外科学、運動器医療を進歩発展させることである。それも日本から。若い医師たちには、是非、憧れを持ってどんどん挑戦し、頑張ってほしい。世界へ羽ばたいて欲しい。「他人が歩いた道を行くのではない、自分が歩いた跡が道となるのだ!」という気概を持ってほしい。医学の未来は若い君たちにかかっている。最後に好きな言葉を紹介して終わる。


 It is difficult to say what is impossible,
  for the dream of yesterday is the hope of today and the reality of tomorrow.


 (訳:何が不可能かをいうのは難しい。
  昨日の夢は今日の希望となり、やがて明日の現実となる。)


 「ロケットの父」と称されるアメリカのロケット工学者で発明家のロバート・ハッチングス・ゴダードの言葉である。ゴダートは「真空中ではロケットは移動できない(作用・反作用の法則が成立しないため)」というのが定説であった時代にロケットの実験を続けたため、生前はマッドサイエンテイスト(常軌を逸した科学者)扱いされた。しかし、アポロ11号の月面着陸により全てが報われた。


金沢大学大学院機能再建学(整形外科学)教授 土屋弘行

CLINICIAN 2018年11・12月号 巻頭言より



 

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