金沢大学附属病院 整形外科

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若き整形外科医たちへ 土屋弘行

2010.12.14

   ― Try, try again.
   ― I have a dream.

 最近の若き整形外科医たちは,どれだけの生きがいを持って働けているのだろうか?仕事,研究を楽しんでいるだろうか?熱き血潮煮えたぎる愚生が,最近ふと思うことを書いてみた.
     
     
 
 金沢市にあった旧制第四高等学校を卒業した井上靖の「あすなろ物語」の一節である.
「あすは檜になろう,あすは檜になろうと一生懸命考えている木よ.でも,永久に檜にはなれないんだって!それであすなろというのよ.」
「僕だけかな」
「何が?」
「翌檜(あすなろ)なのは!」
「だって,貴方は翌檜でさえもないじゃありませんか.翌檜は,一生懸命に明日は翌檜になろうとおもっているでしょう.貴方は何になろうともおもっていらっしゃらない.」
翌檜でさえもないとなると,少し心配となる.
     
     
 
 さて,表題の二つの英文は,他愛のない文に思えるかもしれないが,愚生の尊敬する人物の言葉であり,また,大好きな言葉でありいつも胸に抱いている.
     
     
 
 “Try, try again.”は,日本が誇る世界的に有名な科学者,高峰譲吉博士が学生に語った言葉である.夢を抱いて渡米し,タカジアスターゼの発見や,アドレナリンの結晶化に成功した.博士は,「挑戦あるのみ.君たちの未来は明るい!」と機会あるごとに日本の学生を鼓舞した.ワシントンDCのポトマック河畔の見事な桜並木は,日米友好の架け橋となった彼の功績の一つでもある.博士は,富山県高岡市で生まれ,金沢市で育った.父は加賀藩の御典医であった.1950年( 昭和25年),高峰譲吉博士顕彰会が金沢市に結成され,1952年に高峰賞が制定され現在も続いている.個人賞である高峰賞は地元の優れた学生の勉学を助成し,受賞者は各界で素晴らしい活躍をしている.
     
     
 
 もう一つの文,“I have a dream.”は,1963年8月28日,リンカーン記念公園で行われたマーチン・ルーサー・キング・ジュニア牧師の有名な演説中に登場する魂の叫びである.ジョン F.ケネディの大統領就任演説と並び称される名演説である.人種差別の撤廃に向けて,「今日の,そして明日の困難に直面していても,私にはなお夢がある!」と,同胞たちに訴えた.公民権法が制定され,建国以来200年近くの間米国で施行されてきた法の上における人種差別が終わりを告げることになった.1964年にノーベル平和賞を受賞している.
     
     
 
 “Try, try, again.”,“I have a dream.”何とも素晴らしく,心に響く言葉である.皆さんも,信念を持って日々活動してほしい.
     
     
 
 夢と希望,憧れを持って働くことが大事である.これがあれば,失敗なんか恐るるに足らず.失敗したら,次には失敗しまいと思って進むこと.成功したら,成功の中にある不満足な点を見つけ出して改革していくこと.それが進歩につながる.夢というと,日本では実現しがたいと感じる人が多いと思うが,欧米人の考えは違う.夢は実現するためにあるのだ.見習う必要がある.
 理想に思いを馳せる医師,研究者は,自分の知識の足りなさに気づき,皆打ちのめされている.だから学問的研究を地道に続ける.そして,毎日勉強を欠かすことはない.自信がないからだ.探求し,さらに求めて飽くことを知らない.一生勉強し,研究し続ける.現在の自己に決して満足していないからそうするのだ.そしてその結果,世間で偉大とされる医師や研究者として認められる場合もある.
     
     
 
 愚生の夢と憧れは,整形外科学,運動器医療を進歩発展させることである.それも日本から.皆さんも憧れを持ってどんどん挑戦し,頑張ってほしい.最後に一言,「他人が歩いた道を行くのではない,自分が歩いた跡が道となるのだ!」という気概を持ってほしい.整形外科の未来は若い君たちにかかっている.
 いろいろな学会に参加していて,若い先生がたの熱意ある発表を聴いたり,国際学会で堂々と発表している若い整形外科医を見ていると勇気と希望が湧いてくる今日この頃でもある.
     
     
 
金沢大学大学院機能再建学(整形外科学)教授 土屋弘行 (臨床整形外科「視座」より)
     
     
 

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