金沢大学附属病院 整形外科

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村上 英樹 准教授と五十嵐 峻 大学院生 タイKhon Kaen大学で腫瘍脊椎骨全摘術を施行

2016.09.12

タイKhon Kaen 大学で腫瘍脊椎骨全摘術(TES)を施行
 
 タイのKhon Kaen大学より招聘され、平成28年8月29日に次世代TESを行ってきました。患者さんは胸椎悪性腫瘍の48歳女性で、当教室に以前留学していたPermsak Paholpak先生(Ton先生)から6月中旬に、是非、次世代TESをしに来て欲しいとメールがあり、8月下旬になんとかまとまった休みを取ることができましたので、当教室の五十嵐峻先生と2人で8月27日(土)にタイへ飛びました。
 8月27日の夜にはタイ東北部のKhon Kaenに到着し、早速、Khon Kaen 大学整形外科スタッフとの食事会に招待されました。この食事会には、実際に手術に入って介助してくれる予定の看護師さんが4人来ており、手術前にコミュニケーションをとる非常に良い機会となりました。
 翌日の28日(日)には、実際に手術が行われる予定の手術室に入り、看護師さんも一緒に手術器械を1つ1つチェックし、体内に埋め込む脊椎インプラントのサイズも現地のインプラント会社の方と確認しました。その後、患者さんを診察し、麻痺の状態、放射線治療後の皮膚の状態をチェックしました。画像上は脊髄が高度に圧排されているにもかかわらず、患者さんは全く麻痺がなく、思いのほか元気な様子でした。手術前日ということもあり病室にはご家族の方が10名以上も集まられており、患者さんとご家族に手術の話を簡単にさせて頂きました。次に、整形外科スタッフと一緒に患者さんの画像を見ながら、明日の手術方法や問題点などを確認しました。ただ実際には、私自身がホテルで手術の絵を描きながら夜中まで悩んで最終的な手術方法を決定しました。(当初送られてきた画像よりも腫瘍がはるかに大きくなっており手術方法の変更を余儀なくされたからです)
 29日(月)の手術当日の朝、放射線科医による腫瘍動脈塞栓術がまず行われました。(本来26日(金)に予定されていた塞栓術が手違いで施行されていなかったためです)これには予想以上に時間がかかり、患者さんが手術室に入室したのは昼の12時を過ぎてからで、12時45分からやっと手術を始めることができました。この患者さんは再手術でさらに放射線がすでに照射されており、ここ数ヶ月で凄い勢いで腫瘍が大きくなっていたため、非常に難しい手術になることは予想していました。しかし、手術野を丁寧に展開したところ腫瘍の浸潤と癒着は我々の想像をはるかに超えるもので、腫瘍は硬膜そして壁側胸膜とべったり癒着していました。この時点で私は「この手術もうダメや、どうしようもない、諦めや・・・・」と誰にも通じない日本語で叫んでいました。しかし、叫んだからといって誰も助けに来てくれるわけではありません。何とか自分の気持ちを落ち着かせて丁寧に癒着を剥離しに行きました。私の心の中ではかなり諦めモードになっていたのですが、なんとか硬膜周囲を剥離することができ、そしてついに3つの脊椎に及ぶ腫瘍を完全切除することができました。その後、脊柱を金属で再建して、手術時間は7時間51分でした。出血量は550mlで、見学に来ていた何十人ものタイの先生方から感嘆されました。(最初、タイシルクのような手術だ!と言われ何のことか全く意味が分かりませんでしたが・・・)約8時間の手術も自分としては1時間以内に感じるほどあっという間の時間でした。手術後、高度に圧排されていた脊髄の状態を確認したく、麻酔から覚醒させて下肢麻痺をチェックしたかったのですが、覚醒が非常に悪く、術後2時間待っても患者さんが覚醒しないため、結局、麻痺の確認を諦め、22時45分に手術室を後にしました。そして、整形外科スタッフの待つレストランでささやかな宴が始まったのがすでに23時を過ぎてからでした。その食事がその日の私の初めての食事となりました。
 翌日30日(火)の朝は、すぐに患者さんのいる集中治療室に向かい、患者さんの状態をチェックしました。脊髄麻痺が全くないことを確認し、五十嵐先生と2人でホッと胸をなでおろしたことは言うまでもありません。その後、Khon Kaen大学のKittichai Triratanasirichai学長にお会いして山崎光悦学長からの親書を直接手渡すことができました。そして学長からは、タイ王国政府教育省からの感謝状とお手紙を戴きました。私としてはこのような政府からの感謝状を戴くだけでもう十分満足だったのですが、なんとその後、部屋を移動し記者会見となりました。記者会見会場には大学広報だけでなく全国紙の新聞記者やテレビ局もいくつか来ており、タイで初めての手術が行われ無事に成功したことを報告させて頂きました。そして、患者さんの全身状態の早期回復を祈りながら、夕方には帰国の途につきました。
 今回の手術助手を自ら志願し自腹を切ってついてきてくれた五十嵐先生はもちろんのこと、タイでの整形外科スタッフ、手術看護師、手術器械会社の方々、麻酔科医、放射線科医、臨床工学技士など多職種の皆さんが1つのチームとなって、タイで初めてとなるTESを成功させることができました。今回の手術に協力してくださった皆様に心から感謝したいと思います。本当にどうも有り難うございました。(村上 英樹)

Khon Kaen大学病院正面

手術室にて

集中治療室で術後の患者さんの状態を確認

Khon Kaen 大学学長に山崎光悦学長の親書を手渡す

タイ王国政府からの感謝状を授与

記者会見に臨む

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