金沢大学附属病院 整形外科

金沢大学整形外科 教授 土屋弘行

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ごあいさつ

 去る4月9日に金沢大学整形外科学講座開講60周年祝賀会,そして,10−11日には,第124回中部日本整形外科災害外科学会を成功裏に終わることができ,関係各位に対しましてここに厚く御礼申し上げます.ありがとうございました.また,本年9月26日に日本運動器再建・イリザロフ法研究会,11月26−27日に日本低温医学会・国際低温医学会,来年3月18−19日には日本創外固定骨延長学会を金沢で開催させていただきます.引き続きご指導,ご支援のほど何卒よろしくお願いいたします.

 さて,冒頭のタイトル「飛翔」は,新年を迎えて仕事始めの日に,今年のテーマとなる言葉として私が提示したものです.辞書を繰ってみますと,“空高く飛ぶこと”と出てきます.大空を飛翔する荒鷲のように,教室員が一丸となって頑張ってほしいという期待を込めたものです.大学医学部の役割としていつも言われるのは,教育,研究,診療の3本の柱です.しかし,私どもの最大の使命は,医学を進歩,発展させることにあると思います.先の中部日本整形外科災害外科学会のテーマは,「夢・挑戦・実現 (Dream, Dare, and Do)」でした.多くの若い先生方が,学会に参加したことによって,夢を抱き挑戦する,そしてそれを実現するための何かきっかけを掴んでくれたら,非常に嬉しく思います.

「国家の品格」や「日本人の誇り」の著者としても有名な数学者の藤原正彦先生は,研究者の4条件を以下のようにあげています.
1) 好奇心旺盛であること
2) 執拗であること
3) 野心があること
4) 楽観的であること

 これはあらゆる研究分野に通じることだと思います.私も常々,研究を遂行するためには情熱・信念・執念が必要であると強調しています.4番目の楽観的であることは,言ってみればpositive thinkingのことだと思います.今,多くの日本人が自信をなくしたように見え,元気がないように感じます.日本には長い悠久の歴史があって皇室を中心に非常に争いのない,2675年間存続している地球上にも類を見ない国家であることにまずは誇りを持ってほしいと思うのは私だけではないはずです.

 今の日本人にかけているものは何か?日本人の根底に常に流れているものがあり,それをよび起こす必要があります.それは武士道であり,大和魂です.新渡戸稲造が渡米した時に,なかなか日本人の心を理解してもらえず,米国人にわかってもらうために武士道という本(Bushido: The Soul of Japan)を英語で書いています.この本は,セオドア・ルーズベルト,ジョンFケネディなどの愛読書でもありました.詳細は,多々ある出版本に譲りますが,私が思想として感じ取ったなかには,以下のキーワードがあると思いました.
勇:いかにして精神を練磨するか
仁:人の上に立つ条件とは何か
礼:人とともに喜び,人とともに泣けるか
誠:なぜ武士に二言はないのか
名誉:苦痛と試練に耐えるために
忠義:人はなんのために死ねるか

そして,武士道というは,“死ぬことと見つけたり”,常に己の生死にかかわらず,正しい決断をすることで,影の奉公に大義があるとされています.
 島国の自然,日本独特の四季の移り変わりなどから影響をおよぼされた結果,日本人の精神的な土壌,武士の生活態度や信条が醸成されました.例えば,武士や多くの日本人は自慢や傲慢を嫌い,忠義を信条としたことに触れ,家族や身内のことでさえも愚妻や愚弟,愚息と呼びますが,これらは自分自身と同一の存在として相手に対する謙譲の心の現れであって,この機微は外国人には理解できないものでしょう.石原慎太郎曰く,今の日本人に足りないのは「自己犠牲の精神」と言っていましたが,社会への貢献を考えた場合に最も大切な姿勢なのだと思います.

 さて,私が,教室を担当してから5年が経過しました.学会発表や論文発表,受賞や研究費の獲得状況などを見ますと,順調に経過していると思います.一度気を許しますと,停滞や後退という事態に陥ってしまいますので,その辺は注意を喚起していきたいと思います.指導する立場にいる人間が心がけないといけないものはなにか.
 山本五十六連合艦隊司令長官の有名な言葉に,
・やって見せ,言って聞かせて,させてみて,褒めてやらねば人は動かじ
・話し合い,耳を傾け,承認し,任せてやらねば人は育たず
・やっている,姿を感謝で見守って,信頼せねば人は実らず

というのがあります.これも何時の世でも通じると思いました.金沢大学整形外科には,現在,腫瘍・骨代謝グループ,脊椎脊髄病グループ,関節外科グループ,足の外科・骨再建グループ,スポーツ整形外科グループ,手外科・マイクロサージャリーグループ,リハビリテーショングループの7つのグループがあります.各グループのリーダーは,自らが手本となってグループを牽引して,100%以上の力を出すようにしてほしいと思います.トップの器以上に組織は大きくなれないと言われています.トップも常に進化し続けなければなりません.

 昨年11月に,奈良医科大学整形外科学教室開講60周年記念祝賀会に招待していただき参加いたしました.その時に,スポーツジャーナリストの二宮清純氏による「勝者と敗者の分岐点」という記念講演を拝聴しました.勝つために最も重要なのは“準備力”であると強調し,かの有名なフランスの医学研究者ルイ・パスツール(Louis Pasteuer)の言葉も紹介していました.ご存知のように,パスツールは,生化学者かつ細菌学者であり,分子の光学異性体,低温殺菌法,嫌気性菌の発見,ワクチンの予防接種の開発などで知られる偉人です.当時,次々と新しい発見をするものですから,周囲からは,まぐれや!ただ運がいいだけや!と言われ,妬まれていたそうです.その彼が,彼らに送った手紙には,幸運の女神は,準備無き者には訪れない.
In the fields of observation chance favors only the prepared mind.
原文:Dans les champs de l’observation le hasard ne favorise que les esprits préparés.
と書かれていました.蓋し名言です.全てに共通することだと実感します.パスツールはその後も,学生の講義でこれを提唱しました.また,日本代表サッカーチーム監督のハリルホジッチ監督も,ワールドカップの勝利にとって最も大事なことは準備だと言っていました.

 閑話休題,第二次世界大戦が終わってもまだ「義」のために台湾で戦っている日本人がいたのをご存知でしょうか?元日本陸軍支那方面軍司令官であった根本博中将です.根本中将は,8月15日に天皇陛下の玉音放送がながれたのち,武装解除の詔勅がでたにも関わらずその命令に従わず,ソ連との激戦を継続しました.在留邦人の生命を何が何でも守りぬくつもりでした.そして,在留邦人4万人の帰還と支那方面軍35万人の復員を果たしました.一方,いち早く武装解除した関東軍は,ソ連によりシベリア抑留を強いられ,たくさんの在留邦人が満州で殺戮の嵐に巻き込まれました.ソ連軍の本質と危険性を知っていた根本中将の,素晴らしい予知能力と判断力によるものと考えます.これも,準備力に通じると思います.この時,在留邦人と将兵を日本へ帰還させるためにあらゆる協力を惜しまずにしてくれたのがかの蒋介石でした.

 第二次世界大戦が終わってからも,中国大陸では,共産軍と国府軍(国民党軍)の戦いが続いていました.最初は優勢であった国府軍も,次第に劣勢となり,台湾まで追い詰められました.国府軍が厦門を奪還され,絶体絶命の存亡の危機に陥った時,「義には義をもって返す」と国府軍を指揮して台湾で戦い,台湾を救ったのが根本中将でした.この時の戦いに敗れていれば,今の台湾は存在せず,中国となっていたわけです.戦いの主戦場は中国大陸の厦門から少し離れた金門島でした.今も台湾領ですが,数年前までは外国人はおろか台湾人さえも訪れることはできませんでした.2008年,馬英九総統がこの島で,記念式典を開きました.それから,この史実が多くの人に知られるようになりました.私が,文末に推薦したうちの1冊が,この詳細なノンフィクション小説であり,命を捨てることを恐れず,義のために生きた一人の日本人と,国境を越えてそれを支えた人たちの知られざる物語です.現代に住むわれわれ日本人が,この史実を消化しないといけないと思います.是非ご一読を.
 最後に,同門会の先生方が,常に金沢大学整形外科を誇りに思っていただけるように,今年は,捲土重来を期して“飛翔”していきたいと思います.何卒よろしくお願い申し上げます.
 

今回おすすめする本です.
お時間のあるときにどうぞ.
『この命,義に捧ぐ』 門田隆将著 角川文庫(台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡)
『新戦争論1』 小林よしのり著 幻冬舎(言うまでもなく正しい歴史を認識する本)
『ひみつの教養』 飯島勲(元小泉純一郎首相主席秘書官,現特命担当内閣参与)著 プレジデント社(誰も教えてくれない仕事の基本)
『ゼロ戦と日本刀』 渡部昇一&百田尚樹 PHP文庫 (日本の強さと脆さを知る)
『武士道』これはたくさんありますので,ご自身にあったものをお選び下さい.
 

2015年6月吉日
〈平成27年同門会誌 巻頭言より〉

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