金沢大学附属病院 整形外科

金沢大学整形外科 教授 土屋弘行

エッセイはこちら

早いもので,金沢大学整形外科学講座の主任として5年目に入りました.おかげさまを持ちまして,教育,研究,診療において,少しずつですが着実に前進を続けております.また,金沢大学整形外科同門会の皆様におかれましては,常に教室をサポートしていただいており,この場を借りて深く感謝申し上げます.
 さて,来年4月10−11日と,第124回中部日本整形外科災害外科学会を金沢で開催させていただきます.前日の9日には,金沢大学整形外科学講座開講60年記念祝賀会も会長招宴を兼ねて開催する予定です.多くの同門会員の皆様に参加していただきたいと思います.これに向かって,現在,教室員は全力で準備にあたっておりますので,何卒よろしくお願い申し上げます.そろそろホームページも閲覧できるようになるかと思いますので,是非ご覧下さい.北陸新幹線の開通時期とも重なり,古都金沢は活気に溢れていると予想します.多くのかたに学会参加していだけるように,いろいろな工夫をしたいと考えています.全員懇親会は金沢城公園内で開催いたしますし,モーニングセミナーやランチョンセミナーは,最速の新幹線にちなんで,“金沢かがやきセミナー”としました.
 また,第29回日本創外固定骨延長学会を平成28年3月18−19日の予定で開催させていただきます.更には,平成29年に,第19回国際患肢温存学会(19th General Meeting of International Society of Limb Salvage)を,中部整災学会と同じく桜の季節に開催させていただく予定です.こちらにつきましても,引き続きご支援をお願い申し上げます.

 冒頭に掲げました言葉は,私が中学生の時から座右の銘にしているものです.苦しい生活から這い上がっていくために,是非とも無くてはならない気構えでした.中学生当時,松平康隆監督率いる男子バレーボール日本代表チームに憧れていました.東京オリンピックで銅メダル,メキシコオリンピックで銀メダルを獲得し,ミュンヘンオリンピックでは,“銀も銅もいらない,ほしいのは金メダルだけ”を合言葉にチームが一丸となって戦いました.

そして,多くの困難を乗り越え,見事,金メダルを獲得しました.この時,本が出版され,すぐに飛びつくように購入しました.なかに,監督以下選手それぞれの好きな言葉が書いてあり,松平監督の「負けてたまるか」と南選手の「雑草の如く(草魂)」が,私の心の中の鐘を叩き,全身に響き渡らせました.私の世代と比較して,若い世代は極めて恵まれた平和な毎日を過ごしているかと思いますが,この気概を持っていてほしいと思います.研究がうまく行かない時,満足のいく学会発表ができなかった時など挫折感に遭遇するときは誰でもあるでしょう.そのような時,是非,この気概が必要となってきます.何事を成すにも,最も大事なのは“情熱・信念・執念”であると考えています.
 今年1月6日,恒例の医局新年会が行われ,今年のスローガンとして「草魂・負けてたまるか」を掲げました.更に,若い先生たちからは,加えて,「快進撃!」というスローガンも提案されました.頼もしい限りです.

 日本経済新聞に,iPS細胞でノーベル医学生理学賞を受賞した山中伸弥先生が,イノベーション(革新)の条件という記事を載せていました.研究に専念できる体制づくりが重要で,知財,人材,資金が課題であると述べています.重要なポイントとして,1)特許の取得など周辺業務の専門家雇用,2)柔軟性の高い長期の予算確保,3)寄付など民間資金の活用,をあげています.日本でイノベーションを活発にするうえで,大学が果たす役割は大きいのですが,ただ,基礎研究を実用化する過程を見ると課題も多くあります.そこで,山中先生は,「イノベーションを生む研究環境づくりで重要なのが,特許の確実な取得と,それを可能にする様々な専門家を雇用できる体制だ.どんな発明も特許が確保できなければ実用化は極めて困難になる.」と述べており,まさに,これを痛感している今日このごろです.嘗ては,研究成果を論文として発表できればそれでよしとしていて,特許取得までは到底知恵が回りませんでした.手術術式は問題ないのですが,薬剤,インプラントを含む医療機器,診断技術などは薬事承認を得て,初めて実用化がなされます.医師は,それらを使用して臨床試験を行うことはできますが,薬事承認の最終ステップは企業が行わなければなりません.そこに,特許の問題が絡んできます.折角,ある会社が資金を投入して薬事承認をとっても,特許がなければ他社が同一品を作って市場に参入してきます.そして,利益を上げるどころか投資資金の回収もできない状況になってしまいます.
我々が化学療法に応用してきた安息香酸ナトリウムカフェインは特許が存在しないために,薬事承認を取れずにいます.米国でも,カフェインは,膵癌,悪性黒色腫,脳腫瘍などで使われた報告がありますが,そのフォローがありませんでした.米国の友人が,「Hiroyuki,カフェインはビジネスにならないために普及が難しいだろう」と囁いたのを覚えています.結局,製薬メーカーの後押しが無いために薬事承認を取ることが困難となっています.そこで,カフェイン併用化学療法をどのような形で今後行っていくかを関係部署で検討中です.
 一方,グッドニュースとしては,ある製薬メーカーとの共同研究で,DNA修復阻害剤の合成に成功しました.これは,知財として完璧にプロテクトされていますので,今後の基礎研究および臨床試験を経て,陽の目を見ることになりそうです.培養細胞レベルと動物実験モデルでは,カフェインの3−4倍の抗癌剤の殺細胞増強効果が出ています.ただし,薬剤の製品化には約10年かかると言われています.私の在職中に,何とかものにしたいと思っています.
 革新的な研究であればあるほど,特許を意識しなければならないという時代になってきました.大学の研究成果は,世の中への貢献につながらないといけません.医学研究もどうやら,そういうところにまでやってきたのは確実です.

 産業能率大学が毎年発表している新入社員に聞いた「理想の上司」の第1位に,テレビドラマ「半沢直樹」の主役を演じた俳優の堺雅人さんが選ばれました.原作は池井戸潤氏の小説「オレたちバブル入行組」で,「やられたらやり返す,倍返しだ」———.こんな決め台詞で人気を博しました.ドラマの中では,半沢直樹は1970年に金沢市で生まれ,慶応大学経済学部を卒業し,1992年に産業中央銀行へ入行した“バブル入社組”という設定です.出世競争が激しい銀行という世界で,半沢直樹は「頭取を目指す」と公言するエース行員です.“筋を曲げない性格”から上司との摩擦は絶えないが,部下からの信頼は厚い.そんな上司像に新入社員からの大きな支持が集まったと言われています.皆,カリスマやパワーを感じる上司に憧れるのでしょう.自分も,“ブレない,筋は曲げない男”でいたい,そして,これは「草魂,負けてたまるか」に通ずるものがあると思います.

 さて,今年は冬季オリンピックがロシアのソチで開催され,日本も多数のメダルを取りましたが,金メダルは男子フィギュアスケートの羽生選手の一つだけでした.是非,2020年の東京オリンピックでは,ミュンヘンとアテネを凌ぐメダルを獲得してほしいと思います.今から大事なのは,メダルを取れる選手の育成でしょうか?整形外科医の役割も大きくなるかと思います.また,この本を手にする頃は,結果が出てしまっていますが,サッカーのワールドカップがブラジルで開催されます.サムライ日本には,何としてでも出来る限り上に行ってほしいと思います.これまで当教室に留学に来ていたブラジル人医師たちも,早速,日本戦のチケットを手に入れて応援してくれるとメールをくれました.ズバリ私の予想は,ベスト8.果たして結果はいかに?

 最後になりますが,同門会の先生方に慕われ,誇りを感じていただける教室づくりを常に心がけています.そしてまた,教室員も盤石な同門会を維持するために,日々貢献させて頂いております.今後とも力強いご支援を何卒よろしくお願い申し上げます.

2014年6月吉日
〈平成26年同門会誌 巻頭言より〉

平成28年 ごあいさつ

平成27年 ごあいさつ

平成26年 ごあいさつ

平成25年 ごあいさつ

平成24年 ごあいさつ

平成23年 ごあいさつ

平成22年 ごあいさつ